肖像画、人物画に比べて風景画を苦手としている油絵初心者は多いです。人物画は対象物をはっきりと描くこと、表情の詳細部を切り取ることが、良い油絵のプロセスであることは疑いようがありませんが、風景画の描写を精巧に再現するには、濃淡と陰影が重要な要因となります。
光が当たっていることをしっかりと表現するには、絵の具の混合はもちろんのこと幾何学的な奥行きの表現を会得しなければなりません。陰影を付ける目安としては、以下の1〜4が挙げられます。
- 空ー空は風景画の中で最も明るい表現で描きます。
- 水平面ー空からの光が直接当たるエリアなので、空に合わせて光の強さを調節します。
- 傾斜ーやや暗めの斜面を表現するように深い色合いを選んでください。
- 日陰ー光の道が影を作るため、垂直を意識して陰影にメリハリをもたせます。
晴れた日には太陽の光が暖かく、明るく、より鮮明になります。太陽の光は白と黄色のイメージが基本です。油絵で光がまばゆい草原を表現するには色を軽く乗せる程度で良いでしょう。朝日、夕日など太陽が赤みを帯びていたり、逆に青みを帯びているような表現では、草原の色身を濃くすることで光の加減を表現できます。曇りの日を描くには、全体的に色を鈍らせる必要がありますので、全体的に暗めにぼかしたような配色にしてください。
続けて、大気や空気感の表現についてお話しします。油絵の風景画は、陰影に加えて奥行きや焦点の表現が重要です。近い対象物ははっきりと、遠くにいけばボヤけた雰囲気にする、というのが基本ですが、霧やモヤがかかったような水蒸気を色彩で表すコツは、境界線を濁すことです。木の葉はギザギザ感が分からない程度に、また茂みや山合いは空の色と同化したように境界線を薄く仕上げます。そうすることで、油絵の層の厚みからも遠近感がにじみ出て感じられるでしょう。
風景の切り取り方、いわゆるカット割りも作品としての完成度を高める重要な要素です。キャンバスにどのような構図で描くかは、以下の4つのポイントに注意してください。
- 風景の中心となる対象物は切らずに全体を描くこと
- キャンバス自体をその風景を描く大きさのものを選ぶこと
- 焦点を当てるポイントはくっきりと描くこと
- 風景映る複数の対象物に順位をつけること
例えば、森が茂る傾斜のある川辺に突き出た岩を油絵にする場合、川の青さに際立つグレーや茶色がかった肌色のような岩を中心に置くことで作品が締まったものに思えます。背景となる森や斜面はややぼかしたように焦点を当てずに描き、空の色は川の青さよりも抑えて、白さを濃くすると奥行きが感じられる絵画になるでしょう。
油絵の風景画は、技術がはっきりと見てとれるタイプの作品です。自分で描いた絵を眺めて、奥行きが感じられない場合、陰影のつけ方、焦点の当て方、幾何学的に反対方向の傾斜がついていないか考えてみてください。どれが欠けても、不自然さがにじみ出てきてしまいます。